臆病
マンションに住んでいたころ
彼が五つかそこらのころ
彼らは同じ部屋で寝ていた
ふたつのつながったベッドには
父と母とまだ幼い妹が
その横に敷かれた布団に兄
そして彼は両親と妹の足の下
たしかにそんな風だった
彼の頭上には布団か何かが積んであった
布団と壁の間には中途半端な隙間があった
彼の足の先にある扉から光が射し込む
それはゆらゆらと揺らめき影をつくる
彼は影を恐れ横をむくも
そこにはベッド下の闇が広がっていた
目をつぶるしかなかった
カサカサとヒトの動く音が聞こえる
音を遮ろうと布団を被るしかなかった
彼はいつも怯えていた
助けを求めることはできない
あれから二十年は経ったろうか
彼はなんら変わっていない
風がガタガタと窓を叩く
ヒトがバタバタと動く音が響く
その粗暴な音は彼の身体に
チクチクと染み込んでいく
そして相も変わらず
助けを求めることはできていない